電子書籍で充実した活字ライフを送っていますか。
活字の海に身を委ねる悦びに入り浸れる読書大好きhearTofuです。
本記事ではアマゾンの電子書籍サブスクサービス「Amazon Kindle Unlimited」で実際に読んだ、『新装版 殺戮にいたる病』について、あらすじ・感想・おすすめポイントをまとめました。
これから読もうか迷っている方や、新しい本との出会いをお探しの方のは、ぜひ参考にしてみてください。
本のあらすじ
東京で発生した、目を覆いたくなるほど凄惨な連続猟奇殺人事件。被害者はいずれも若い女性であり、絞殺された後に乳房や性器を切り取られるという、異常な愛好癖(ネクロフィリア)を窺わせる遺体の状態が世間を震撼させていた。
物語は、三人の人物の視点が交錯しながら進む。
一人目は、犯人の蒲生稔。彼は殺人を「真実の愛」への階段と捉え、死体を愛で、その一部を持ち帰ることで永遠の絆を手に入れようとする狂気の世界に生きていた。 二人目は、平凡な主婦・蒲生雅子。大学生の息子・稔の部屋から血のついたビニール袋を見つけ、最愛の息子が殺人鬼ではないかと疑い始める。彼女は家庭の平穏を守るため、息子の行動を監視し、自らの不安を打ち消そうと必死に足掻く。 三人目は、元刑事の樋口武雄。妻を亡くし、孤独の中で生きる気力を失っていた彼は、かつての知人である看護婦・島木敏子が事件の犠牲となったことを知り、独自の捜査を開始する。
交わるはずのない三人の運命は、残酷な結末へと向かって加速していく。そして最後の一行で、読者は「世界の崩壊」を体験することになる。
書評・感想レビュー
ページを捲る手が止まらない、計算し尽くされた恐怖
我孫子武丸氏の代表作である『殺戮にいたる病』は、ミステリー史にその名を刻む「叙述トリック」の傑作として知られている。しかし、本書を単なる「驚きの仕掛けがあるパズル」として片付けることはできない。読み始めてすぐに、読者は犯人・蒲生稔の異常な心理描写に、嫌悪感を抱きながらも惹きつけられてしまうのだ。
稔が語る「愛」は、あまりにも純粋で、それゆえに救いようがない。彼は女性を殺害し、その死体を丁寧に「解体」する過程を、まるで神聖な儀式のように描写する。そこにはサディズム(加虐愛好)というよりも、死体そのものを愛するネクロフィリアの傾向が色濃く反映されている。切り取った乳房を庭に埋め、夜中に掘り出しては愛でるという描写は、生理的な不快感を呼び起こすが、同時に「失われることを恐れる」という、人間の根源的な愛着の歪んだ形を突きつけてくる。
この犯人視点の描写が、他の二人の視点と交互に語られることで、物語に異常な緊張感が生まれている。読者は、雅子が息子の部屋を掃除しながら抱く「うちの子に限って」という根拠のない確信と、現実に死体を弄ぶ稔の姿のギャップに、絶え間ない寒気を感じ続けることになるのだ。
「普通」の皮を被った家族という病理
本作の真の恐ろしさは、猟奇的な殺害シーンそのものよりも、むしろ蒲生雅子の視点に集約されている。彼女は「平凡で平穏な暮らし」を何よりも愛し、その維持に執着している。息子が犯罪者かもしれないという確証に近い疑いを持ちながらも、彼女がまず考えるのは「警察へ行くこと」ではなく、「どうすればこの家庭の平穏を守れるか」である。
雅子の思考は、現代社会における「教育」や「家族の絆」という言葉がいかに脆いか、そして母親という存在がいかに盲目的になり得るかを残酷に描き出している。彼女は大学のセミナーで聞いた「性の多様性」や「思春期の心理」といった情報を都合よく解釈し、息子の異常な行動を「成長過程の些細なこと」として処理しようとする。
「雨降って地固まるというではないか。前よりもいっそう素晴らしい家族にだってなれるはずだ」という彼女の独白は、もはや狂気に近い。彼女にとっての「敵」は、殺人を犯す息子ではなく、その平和を脅かそうとする世間の目や警察なのだ。この「家族病理」の描写こそが、本書を単なるサイコ・ホラーから、社会派の側面を持つ重厚なミステリーへと昇華させている。
孤独な狼、樋口の執念と救い
物語のもう一つの軸である元刑事・樋口のパートは、ハードボイルドな哀愁に満ちている。妻を乳癌で亡くし、孤独という名の敵に打ちのめされていた彼にとって、被害者の妹であるかおると協力して犯人を追うことは、失った「生きる意欲」を取り戻す行為でもあった。
樋口は警察組織の限界を知っている。ゆえに、法の手が及ばぬ場所で、自らの感覚を頼りに犯人像を絞り込んでいく。彼の捜査は、現代の科学捜査とは対極にある、執念と経験に基づいた泥臭いものだ。しかし、彼自身もまた、犯人と同じ「死神(タナトス)」の影を背負っていることに気づき、苦悩する。
かおるを守り抜き、姉の仇を討とうとする樋口の姿は、読者にとって唯一の希望の光のように感じられる。しかし、その彼ですら、最後に突きつけられる真実の前では、ただの無力な一人の人間に過ぎないことが露呈する。
叙述トリックがもたらす「世界の崩壊」
本作について語る際、避けては通れないのが結末の叙述トリックだ。未読の方のために詳細は伏せるが、我孫子氏は読者が無意識のうちに抱いている「先入観」を、見事なまでに利用している。
「息子=犯人」と信じて疑わなかった読者が、最後の一行に辿り着いた瞬間、それまで見ていた景色は一変する。それは単なる犯人当ての驚きではない。笠井潔氏が解説で述べている通り、それは「息子=父親」という不気味な等式を突きつけることで、現代日本における家族の構造そのものを崩壊させる体験なのだ。
「父親」としての成熟を拒否した男が、家庭内で「息子」の座を奪い合い、母親は過剰な密着を続ける。この歪な図式が、猟奇殺人という極限の形を借りて暴き出される。読後に訪れる、あの言葉にできない「呆然感」は、自分たちが依って立つ「家族」という概念の脆さを思い知らされたことによる衝撃に他ならない。
二十五年の時を経て、なお色褪せない輝き
新装版のあとがきで我孫子氏自身も触れているが、本作が書かれたのは四半世紀以上前だ。スマホも携帯電話もなく、タクシーを拾うのにも苦労した時代の物語である。しかし、そこで描かれている人間の孤独、母親の妄信、そして心の闇は、今の時代においても全く色褪せていない。
むしろ、SNSの普及によって個人の孤独が可視化され、家族の形がより多様化した現代において、この「家族の閉鎖性」が招く悲劇は、よりリアルな恐怖として私たちの心に響く。
『殺戮にいたる病』は、単なるミステリーの枠を超えた「人間という病」を描いた傑作だ。そのあまりの衝撃に、読了後はしばらく他の本を手に取ることができなくなるかもしれない。しかし、その痛みと驚きを経験することこそが、読書の真醍醐味であると言えるだろう。
こんな方におすすめ
- 「最後の一行で騙されたい」という欲求が強い方
叙述トリックの代名詞的な一冊です。 - 心理学的なホラー、サイコ・サスペンスを好む方
犯人の内面描写や、母親の心理変遷が緻密に描かれています。 - 人間の「愛」や「狂気」の極限状態に興味がある方
美しくも残酷な描写が心に突き刺さります。 - 現代の家族関係にどこか違和感を覚えている方
当たり前と思っている「家庭」の裏側を覗き見る勇気があるなら、ぜひ。
まとめ
『新装版 殺戮にいたる病』は、発表から長い年月が経った今もなお、日本のミステリー界の頂点に君臨し続ける作品です。エピグラフに引用されたキルケゴールの「死にいたる病とは絶望のことである」という言葉が、物語を通じて重く響き渡ります。
全編を覆う凍てつくような冬の空気感、鼻を突く死臭、そして崩れ落ちる日常。読み終えた時、あなたは自分が信じていた「現実」が、いかに危ういバランスの上に立っていたかを痛感するでしょう。
まだこの「病」を未体験の方は、ぜひ覚悟を決めてページを開いてください。
ただし、読後の衝撃による「呆然感」については、一切の保証は致しかねます。
書籍概要
| タイトル | 新装版 殺戮にいたる病 |
| 著者名 | 我孫子 武丸 |
| 出版社 | 講談社 |
| 言語 | 日本語 |
| 本の長さ(ページ数) | 約368ページ(文庫本) |
| 発売日 | 2017年10月13日 |
| 紙媒体価格 | 847円(税込) |
| 書籍購入先 | アマゾンキンドルで読む |
読み放題Kindle Unlimited初回無料
Kindle Unlimited(キンドル アンリミテッド) は、月額980円(税込)で500万冊以上の電子書籍が読み放題になるAmazon公式の人気サービスです。
小説、ビジネス書、自己啓発本、漫画、雑誌まで幅広くそろっており、本をよく読む人ほどお得に使えます。
紙の本を何冊も買うよりコストを抑えやすく、月3冊以上読む方なら十分に元が取りやすいのも魅力です。
さらに、初回は30日間無料体験があるので、まずは気軽に使い心地を試せます。
Amazon Kindle Unlimitedをお得に始めたい方は、下のバナー画像から無料体験をチェックしてみてください。

